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神戸地方裁判所尼崎支部 昭和47年(ワ)546号 判決 1977年3月30日

原告

松田乙助

ほか四名

被告

株式会社山口工務店

ほか四名

主文

一  被告らは各自

1  原告松田乙助に対し、金一〇四一万九〇三二円及び内金九二一万九〇三二円に対する昭和四七年一月一六日以降、内金四〇万円に対する同年一〇月五日以降それぞれ支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、

2  原告松田フクに対し金九二一万九〇三二円及びこれに対する昭和四七年一月一六日以降年五分の割合による金員を、

3  原告紺屋昇に対し、金一六二万三八三七円及び内金一四二万三八三七円に対する昭和四七年一月一六日以降、内金一二万円に対する同年一〇月五日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、

4  原告紺屋豊志に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和四七年一月一六日以降年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

二  原告紺屋富士雄の請求並びに原告松田乙助、同松田フク、同紺屋昇のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用のうち原告松田乙助、同松田フク、同紺屋豊志と被告らとの間に生じた費用は全部被告らの負担とし、原告紺屋昇と被告らとの間に生じた費用についてはこれを三分し、その二を原告紺屋昇の、その余を被告らの負担とし、原告紺屋富士雄と被告らとの間に生じた費用については原告紺屋富士雄の負担とする。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自

(一) 原告松田乙助に対し金一一六六万九〇三二円及び内金九二六万九〇三二円に対する昭和四七年一月一六日から、内金四〇万円に対する昭和四七年一〇月五日からそれぞれ支払済みに至るまで年五分の割合による金員を

(二) 原告松田フクに対し、金九二六万九〇三二円及びこれに対する昭和四七年一月一六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を

(三) 原告紺屋昇に対し金四三一万三〇七六円及び内金三七九万三〇七六円に対する昭和四七年一月一六日から、内金一二万円に対する同年一〇月五日からそれぞれ支払済みに至るまで年五分の割合による金員を

(四) 原告紺屋富士雄、同紺屋豊志に対しそれぞれ金一〇〇万円及びこれに対する昭和四七年一月一六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

2  訟訴費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告らの請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  (事故の発生)

訴外松田澄子(当時三〇歳)、同紺屋ひとみ(当時四五歳)は左記交通事故によりそれぞれ死亡した。

(一) 事故発生日時 昭和四七年一月一五日午前一〇時四五分ころ

(二) 事故発生場所 福岡県京都郡勝山町国道二〇一号菩提バス停付近路上

(三) 加害車

(1) 被告株式会社山口工務店(以下「被告山口工務店」という。)所有車(以下「川出車」という。)

車種 四輪貨物自動車

登録番号 北九州四に八〇七九号

運転者 被告川出賢一(以下「被告川出」という。)

(2) 被告有限会社みどりタクシー(以下「被告みどりタクシー」という。)所有車(以下「石川車」という。)

車種 四輪乗用車

登録番号 北九州五五あ一四三二号

運転者 訴外亡石川春美(以下「石川」という。)

(四) 事故の態様

前記松田澄子、紺屋ひとみはいずれも石川車に乗客として同乗し、行橋市内から、同県田川市に向う途中、右事故現場にさしかかつた際、同車と対向してきた川出車が衝突し、松田澄子、紺屋ひとみ両名が即死した。

2  (責任原因)

(一) 被告山口工務店、同山口喬(以下「被告山口」という。)、同中武香澄(以下「被告中武」という。)は川出車を、被告みどりタクシーは石川車をそれぞれ自己のために運行の用に供していたものであるから自賠法三条により後記損害を連帯して賠償すべき責任がある。

すなわち、被告山口工務店は川出車の、被告みどりタクシーは石川車のそれぞれ所有者であり、また、被告山口工務店は実質的には被告山口が経営する個人企業である。被告中武は被告山口から自己の荷物を運搬するために川出車を無償で借り受け、知りあいの被告川出に川出車の運転を依頼し、これを了承した右川出が被告中武を同乗させて右荷物を運搬中本件事故を惹起したものである。

(二) 被告川出は前記日時場所において川出車を運転していたものであるが、先行車を追い越す際に対向車との間に十分な車間距離をおかず、かつ、雨中下り坂の道路を速度を落さずに急ハンドルを切り自己の車線に戻ろうとした過失により、本件事故を惹起したものであるから民法七〇九条により、後記損害を賠償すべき責任がある。

3  (損害)

(一) 松田澄子死亡に伴う損害

(1) (逸失利益)

松田澄子は松隆基礎工業株式会社の代表取締役として金一五一万円、桂成商事株式会社の経理担当者として金六〇万円の稼働収入を得ていたものであるから、本件事故後少くとも三三年は稼働し、右の収入を得ることができると考えられるので、生活費として右収入の二分の一を控除したうえホフマン式計算法により中間利息を控除し、逸失利益を算定すれば金二〇二三万八〇六五円となる。

105万5000円×19.183=2023万8065円

(2) (相続)

原告松田乙助、同松田フクは、死亡した松田澄子の両親であり、澄子の死亡に伴い、右(1)の損害賠償債権の各二分の一すなわち各金一〇一一万九〇三二円を相続により取得した。

(3) (慰謝料)

原告松田乙助、同松田フクは女性実業家として将来を嘱望していた娘である松田澄子が本件交通事故により急死したことにより、その精神的シヨツクは甚大であり、右精神的損害を金銭に見積ればそれぞれ金二〇〇万円が相当である。

(4) (弁護士費用)

原告松田乙助は本件提訴に際し、同松田フクの分も含めて着手金として金四〇万円を昭和四七年一〇月四日、原告ら訴訟代理人に支払い、報酬は二〇〇万円(但し一部認容の場合は認容額の一割)とする契約を締結したので、弁護士費用として合計二四〇万円を請求する。

(二) 紺屋ひとみ死亡による損害

(1) 紺屋ひとみは主婦として家事労働に従事してきたものであるが、右家事労働による家庭への寄与を賃金収入に換算すれば女子労働者の平均賃金である年間八〇万八八〇〇円の収入を得ていたものと解されるから、本件事故後少くとも二二年は稼働し、右の収入を得ることができると考えられるので、生活費として右収入の二分の一を控除したうえ、ホフマン式計算法により中間利息を控除し、逸失利益を算定すれば金五八九万六一五二円となる。

40万4400円×14.58=589万6152円

(2) (相続)

原告紺屋昇は亡ひとみの夫であり、市薗シヲは亡ひとみの母であるが右両名はひとみの死亡に伴い、右(1)の損害賠償債権の各二分の一を相続したから、原告紺屋昇は金二九四万八〇七六円の各請求権を取得した。

(3) (慰謝料)

原告紺屋昇は夫として本件事故により妻を失つた精神的なシヨツクは甚大であり、また原告紺屋富士雄及び同紺屋豊志と亡ひとみとはいずれも継母子の関係にあるが、父昇がひとみと結婚して以来一〇年間生活を共にし、実の母子と同様の愛情をもつて接し、本件事故によつてひとみを失つた精神的苦痛は実の親子と同様である。したがつて右精神的損害を金銭に見積れば原告昇については四〇〇万円、原告富士雄、同豊志については各一〇〇万円が相当である。

(4) (弁護士費用)

原告昇は本件提訴に際し、原告富士雄、同豊志の分を含めて着手金一二万円を昭和四七年一〇月四日原告ら訴訟代理人に支払い、報酬は四〇万円(但し一部認容の場合は認容額の一割)とする契約を締結したので弁護士費用として合計五二万円を請求する。

(三) 損益相殺

(1) (松田澄子関係)

原告松田乙助、同フクは両名で川出車の強制保険から金五〇〇万円、被告川出から昭和四七年一一月九日金七〇万円の支払を受けた(右原告乙助、同フク共各金二八五万円)ので前記同原告らの損害から差し引くことにする。

(2) (紺屋ひとみ関係)

原告紺屋昇は前記市薗シヲと両名で川出車の強制保険より金四九一万円の支払を受け(原告昇受取分金二四五万五〇〇〇円)、更に被告川出から金七〇万円の支払を受けたので原告昇の前記損害から差し引くこととする。

4  よつて、被告らは連帯して原告松田乙助に対し金一一六六万九〇三二円、原告松田フクに対し金九二六万九〇三二円、原告紺屋昇に対し金四三一万三〇七六円、原告紺屋富士雄、同紺屋豊志に対しそれぞれ金一〇〇万円の支払、及び右各金員に対する損害発生の翌日である昭和四七年一月一六日から(弁護士費用のうち、着手金については支払日の翌日である同年一〇月五日から。弁護士費用のうち残余の成功報酬については利息の請求はしない。)支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  (被告ら)

請求原因1の事実は認める。

2  (被告山口工務店、同山口、同中武)

同2の(一)のうち、被告中武が川出車を自己のために運行の用に供していたこと、川出車が被告山口工務店の所有であることは認めるがその余の事実は否認する。

(被告みどりタクシー)

同2の(一)のうち被告みどりタクシーが石川車を保有し自己のために運行の用に供していた事実は認める。

(被告川出)

同2の(二)の事実は否認する。

本件事故は石川車を運転していた石川春美の高速度運転、避譲不適当の過失によつて発生したものであつて被告川出に過失はない。

3  (被告ら)

同3の(一)、(二)の事実は知らない。同(三)の事実は認める。

(被告みどりタクシー)

松田澄子の経営していた松隆基礎工業株式会社は昭和四五年六月三〇日に資本金五〇万円で設立された会社である。また、澄子の昭和四五年度の給料は金五三万円、昭和四六年度は金一五一万円であつて極めて浮動的である。一方、桂成商事株式会社は昭和四四年八月七日に資本金一〇〇万円で設立された会社であり、昭和四五年度、同四六年度は欠損を出しており澄子の給料も昭和四五年度に比べ昭和四六年度は減つている。このように両社ともかなり収支が浮動的であり、澄子が今後三三年にわたり年額金二一一万円を受け取る蓋然性は認められず、女子労働者の平均賃金にしたがつて逸失利益の計算がなされるべきである。

(被告川出を除く被告ら)

原告紺屋富士雄、同豊志は亡ひとみとは継親子関係にあり、同原告らには法律上の請求権はない。

三  抗弁

1  (被告みどりタクシー)

(一) 被告みどりタクシー及び運転者石川は石川車の運行に関し注意を怠らなかつた。

すなわち、石川は進路前方に追い越しのためセンターラインを越えて自己の車線に侵入してきた川出車を認めたが、何ら危険な徴候もなかつたところ、両車の間隔が約一〇〇メートルになつた際、川出車が自分の進路に戻るべくハンドルを左に切つたが、その方法が拙劣であつたため、車体の横ぶれを起し、右斜にすべりながら進行したため、石川は危険を感じて急制動をかけたが及ばず衝突したものであつて、石川の処置に何ら過失はない。

(二) 本件事故は右で述べたように被告川出が運転の経験が浅く、殊に川出車には初めて乗つたため不馴れであつたうえ、雨降りで下り坂であるのに時速七〇キロメートルの速度で追い越しをかけ、自己車線に戻る際に速度を落さずに急にハンドルを切つたため横ぶれを起し、本件事故に至つたものであつて、右事故は被告川出の一方的な過失によつて惹起されたものである。

(三) 本件自動車には構造上の欠陥も機能上の障害もなかつた。

したがつて、被告みどりタクシーには自賠法三条の責任はない。

2  (被告ら)

被告川出は原告ら自認の受領金以外に昭和四七年六月四日金一〇万円を原告松田乙助、同フクに支払つた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の(一)の事実は否認する。

本件現場は見通しが良く、道路の幅員は九メートルもあるから、石川は自己の車線に入つてきた川出車を早くから発見していたものと考えられ、川出車が自らの車線に戻ることを見極めるべきであり、また道路の幅員にもかなりの余裕があり、十分に石川は避譲でき、本件事故を避けえたものと考えられる。

2  同1の(二)の事実は事故の発生が被告川出の一方的な過失である点を否認し、その余の事実は認める。同一の(三)の事実は知らない。

3  抗弁2の事実は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  成立に争いがない甲五号証、乙一号証の一ないし三、丙一号証の一ないし四並びに被告川出本人尋問の結果によれば次の事実を認定することができ、右認定をくつがえすに足る証拠はない。

1  被告川出は本件事故日から約九ケ月前の昭和四六年四月に普通免許を取得し、以後事故日まで週に一度位レンタカー等を利用してドライブに行つていたものであり、一時トラツク運転のアルバイトをしたこともあつた。

被告川出は被告中武から川出車の運転を依頼されたものであるが、本件事故日にはじめて川出車を運転した。

2  本件事故現場付近は福岡県田川市から行橋市に至る国道二〇一号線上であり、幅員約九メートルのアスフアルト舗装が施してある歩車道の区別のない道路であり、車道の両端にはそれぞれ幅員約五〇センチメートルの有蓋側溝が設置されている。また、側溝を含めた道路の両端からそれぞれ一・五メートル車道内側に左右それぞれ白線で外側線が標示されている。道路の両側は下り斜面の土手になつており、それぞれ約一〇メートル下に田園があり、道路(側溝を含む)の両端には転落防止のためのガードケーブルが設置されている。現場は見通しが良く行橋方面から登り勾配三・五パーセントであり、事故当時は降雨が激しく、路面を雨水が流れている状態であつた。現場付近の交通規制は無い。

3  被告川出は、川出車を運転して田川市から行橋市に向つて本件現場付近に差しかかつた際、前方一〇数メートル先を同方向に進行していた軽四輪自動車を追い越すために時速約七〇キロメートルに加速して対向車線上に出た際、前方に石川車が対向して来るのを認めたが、相当の距離があつたため、追い越しを完了できるものと考え、前記先行車より約三一・五メートル前方に出る地点まで対向車線上を進行したところ、石川車との距離が約一〇〇メートルに迫つていたので急ハンドルを切つたため、車体が横ぶれを起し、車体後部が左に振れ、したがつて川出車は、センターライン上付近で進行方向に向つて約三〇度位右斜めになつた状態となつた。そこで、被告川出は急ハンドルを切つた地点からそのまま約二一・五メートル進んだとき、前方約五二・八メートルに石川車が迫つていたので急ブレーキを踏んだところ、路面が濡れていたこともあつて、やゝ右方向に滑走し、ブレーキを踏んだ地点から約二四・二メートル進行した地点でセンターラインを越えていた川出車右前部と対向してきた石川車の右前部が激突した。

4  石川車は本件現場付近にさしかかつた際、行橋市から田川市に向けて時速約七一キロメートルで進行していたが、前記川出車との衝突の危険を察して時速約五二キロメートルまで減速したが及ばず、衝突に至つたものである。なお、衝突時石川車と道路左端(側溝を含む)との距離は約三メートルであつた。

三  責任

1  被告川出の責任

一般に自動車運転者は、先行車を追い越す際には追越時の道路の状況等を考慮し、安全に追い越しを完了しなければならないというべきところ、右認定の事実によれば被告川出は、本件道路は激しい降雨のため滑りやすく、しかも進行方向にかけてゆるやかとはいえ下り勾配であつたから、先行車を追い越し、高速度の運転状態で自車線に戻るためにハンドルを切る際には、急ハンドルを切れば車体が横ぶれを起し、ハンドルをとられることもあるから、ハンドルは徐々に切らなければならないのにかかわらず、石川車が一〇〇メートル前方に迫つていたために急ハンドルを切つた過失により車体が横ぶれを起し、ハンドルをとられたためセンターラインを越えて滑走し本件事故に至つたものであるから被告川出は民法七〇九条により後記損害を賠償すべき責任がある。

2  被告山口工務店、被告山口、被告中武

(一)  被告中武が川出車を自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

(二)  川出車が被告山口工務店の所有であることも当事者間に争いがない。

(三)  成立に争いがない乙一号証の二ないし五並びに被告川出及び同中武本人尋問の結果によれば、被告川出はかねてから顔見知りの被告中武からテレビとフランスベツドを北九州市内から別府市まで運搬することを依頼され、さらに被告中武は知り合いの被告山口との間で右運搬のための普通貨物自動車(川出車)を借りる約束をなしたこと、被告山口は事故当日の朝、被告中武方に川出車と異る車で行き被告川出を同乗させて川出車を取りに一旦被告山口方付近のガソリンスタンドに行きそこで被告川出を待たせて、被告山口が川出車を取りに行き、川出車を運転して同所に引き返し、待つていた被告川出に川出車を貸し与えたこと、被告山口工務店は被告山口が経営する個人企業であることが認められ、これをくつがえすに足る証拠はない。

(四)  以上の事実を総合すれば、被告山口工務店及び被告中武はもちろん、被告山口もまた自己のために川出車を運行の用に供していたものというべきであり、右被告らはいずれも自賠法三条により連帯して後記損害を賠償すべき責任がある。

3  被告みどりタクシーの責任

(一)  被告みどりタクシーが石川車を保有し、自己のために運行の用に供していた事実については当事者間に争いがない。

(二)  そこで、被告みどりタクシーの免責の抗弁について判断する。

前記認定の事実によれば、石川において、少くとも川出車が追い越しのために自己(石川車)の車線に侵入してきた際に制限速度に減速することにより事故を避けえたのにこれをせず、更に、衝突点から道路左端まではまだかなりの余裕があるから、川出車がセンターラインを越えて滑走してきた際にも単にブレーキ操作のみに頼らず、ハンドルを左に切る方法により衝突を避け得たのにこれをしなかつた点にそれぞれ過失があるというべきである。

したがつて、その余の判断に及ぶまでもなく、被告みどりタクシーの免責の抗弁には理由がない。

(三)  よつて、被告みどりタクシーもまた自賠法三条により前記各被告らと連帯して後記損害を賠償すべき責任がある。

四  損害

1  松田澄子死亡による損害

(一)  逸失利益

証人松田達男の証言により成立の真正が認められる甲一ないし四号証によれば松田澄子は松隆基礎工業株式会社の代表取締役として昭和四六年度は年額一五一万円の給与を得ており、同時に桂成商事株式会社の経理担当者として金六〇万円の給与を得ていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。したがつて同人は本件事故がなかつたならば今後少くとも三三年は稼働することができ、その間右の収入を得ることができるものと考えられるので、生活費として右収入の二分の一を控除したうえホフマン式計算方法により中間利息を控除すれば金二〇二三万八〇六五円となる。

ところで、成立に争いがない丙一〇号証の一ないし三によれば、松隆基礎工事株式会社は昭和四五年に設立し、資本金が五〇万円であること、同社は昭和四五年度は欠損金があり、昭和四六年度に至つて利益を出していること、松田澄子の同社における昭和四五年度の給与は金五三万円であること、桂成商事株式会社は昭和四四年に設立し、資本金一〇〇万円であり、昭和四五・四六年度は欠損を出しており、右松田の同社における昭和四五年度の給与は金七八万一二五〇円であることが認められこれに反する証拠はない。右事実によれば確かに右両会社の収支及び松田の収入は安定はしていない。しかし、両会社が将来倒産に至るか、業績を伸ばし、大きな利益を計上しうるようになるか、それに伴つて右松田の収入が減収となるか増収となるかは明らかとは言えず、したがつて、特別な事情のない限り、松田が本件事故がなかつたならば前年度と同様の収入を得るものとして逸失利益を計算してさしつかえないものというべきである。

(二)  相続

成立に争いがない甲七号証によれば松田澄子は配偶者及び子は存在しないので同人の両親である原告松田乙助及び同松田フクが澄子の財産を相続したことが認められる。したがつて、右(一)の逸失利益は右原告らが各一〇一一万九〇三二円(少数点以下切捨、以下同じ)宛相続により取得した。

(三)  慰謝料

証人松田達男の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告松田乙助、同松田フクが娘である澄子を失つた悲しみは甚大であることが認められ、右事実と前記認定の諸事情を考慮し、右原告らの精神的損害を金銭に換算すれば同原告らにつき各金二〇〇万円が相当である。

(四)  損益相殺

原告松田乙助、同フク両名が川出車の強制保険から金五〇〇万円の支払を受けたこと、被告川出から昭和四七年六月四日、同年一一月九日の二回にわたり金八〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

(五)  弁護士費用

右(二)及び(三)の会計額から(四)の金額を差し引いた額は金一八四三万八〇六四円(原告乙助、同フクにつき各九二一万九〇三二円)であり、被告らは各自右原告らに対し、右金額を賠償すべきであるが、右原告らが弁護士である原告訴訟代理人に委任して本訴の提起、追行をしたことは記録上明らかであり、事案の難易、認容額等を考慮し、右原告らが被告らに対し賠償を求めうる弁護士費用は金一二〇万円をもつて相当と認める。なお、弁論の全趣旨によれば、原告松田乙助は同フクの分を含め、右弁護士費用のうち金四〇万円を昭和四七年一〇月四日に原告訴訟代理人に支払つたこと、成功報酬は原告松田乙助が同フクの分も含めて支払う約束であつたことが認められる。

2  紺屋ひとみ死亡による損害

(一)  逸失利益

原告紺屋昇本人尋問の結果によれば、紺屋ひとみは主婦として家事労働に従事していたことが認められ、右家事労働を賃金収入に換算すれば、同年齢の女子労働者の平均賃金であることが当裁判所に顕著な事実であるところの年間七〇万七五〇〇円(昭和四七年度賃金センサス第一巻第一表による)の収入を得ることができたものと考えられる。したがつて、紺屋ひとみは本件事故がなかつたならば今後平均余命の範囲内である二二年間は稼働することができ、右の収入を得ることができると考えられるので、生活費として右収入の二分の一を控除したうえ、ホフマン式計算法により中間利息を控除し、逸失利益を算定すれば、金五一五万七六七五円となる。

(二)  相続

成立に争いがない甲六号証及び原告紺屋昇本人尋問の結果によれば、右ひとみには子供がなく、配偶者である原告紺屋昇と母である市薗シヲがひとみの財産を相続したことが認められる。したがつて、右(一)の逸失利益の二分の一である金二五七万八八三七円を原告紺屋昇が相続により取得した。

(三)  原告紺屋昇の慰謝料

原告紺屋昇本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告昇にとつてひとみは二度目の妻ではあるが、一〇年間にわたり生活を共にした妻を失つた悲しみが大きかつたことが認められ、右事実と前記認定の諸事情を考慮すれば、原告紺屋昇が慰謝料として被告らに賠償を求めうる金額は金二〇〇万円が相当である。

(四)  原告紺屋富士雄及び紺屋豊志についての慰謝料

前記甲六号証及び原告紺屋昇本人尋問の結果によれば原告富士雄、同豊志はともにひとみとは継母子の関係にあること、原告豊志は昭和三六年二月六日に出生したが、その翌日に実母と死別し、その後乳児院において育てられ、原告昇とひとみが昭和三七年一月二六日に結婚するに及んで両名は一歳に満たない原告豊志をひきとり、ひとみはその後約一〇年間にわたり豊志をわが子同様に育ててきたこと、原告豊志は本件事故に至るまでひとみを実母と信じており、事故の際には遺体にとりすがつて泣いてひとみの死を悼んでいたこと、一方、原告富士雄は原告昇とひとみが結婚した当時は七歳であり、その後ひとみに育てられ、同人になついてはいたが同人が継母であることは知つていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

思うに民法七一一条は近親者固有の慰謝料請求権者を父母、配偶者及び子に限定しており、特段の事情のない限り右以外の者に請求権を認めることはできない。

ところで、前記認定のとおり原告豊志は生後一年足らずの物心がつかない時からひとみに育てられ、ひとみを実母と信じていたものであり、その悲しみは実の子と何ら異るところはなく右民法七一一条を類推適用すべき特段の事情があるものというべく、原告豊志は近親者固有の慰謝料を請求できるものと解せられる。そして、右慰謝料の額は前記認定の諸事情を考慮し、金一〇〇万円をもつて相当と認める。

一方、原告富士雄もひとみを母としてある程度慕つていたことは認められるが、継母であることは知つていたものであり、その他民法七一一条を類推適用すべき特段の事情を認めるに足る証拠はない。よつて原告富士雄の請求はその余の判断をするまでもなく理由がない。

(五)  損益相殺

原告紺屋昇は強制保険から金二四五万五〇〇〇円(市薗シヲと両名で金四九一万円)の支払を受け、更に被告川出から金七〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

(六)  弁護士費用

右(二)及び(三)の合計額から(五)の額を差し引いた額は金一四二万三八三七円であり、被告らは各自、原告昇に対し右金額を、原告豊志に対し右(四)の金一〇〇万円を賠償すべきであるが原告昇が弁護士である原告訴訟代理人に委任して本訴の提起、追行をしたことは記録上明らかであり、事案の難易、認容額等を考慮し、右原告昇、同豊志が両名で賠償を求めうる弁護士費用は金二〇万円をもつて相当と認める。なお、弁論の全趣旨によれば原告昇は同豊志の分も含め、右弁護士費用のうち金一二万円を昭和四七年一〇月四日に原告訴訟代理人に支払つたこと、成功報酬は原告昇が同豊志の分も含めて支払う約束であつたことが認められる。

五  まとめ

以上の次第であるから、被告らは各自、(一)、原告松田乙助に対し、金一〇四一万九〇三二円及び内金九二一万九〇三二円に対する損害発生後である昭和四七年一月一六日から、内金四〇万円(弁護士費用着手金)に対する損害発生後である同年一〇月五日からそれぞれ支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、(二)、原告松田フクに対し、金九二一万九〇三二円及びこれに対する損害発生後である昭和四七年一月一六日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、(三)、原告紺屋昇に対し金一六二万三八三七円及び内金一四二万三八三七円に対する損害発生後である昭和四七年一月一六日から、内金一二万円(弁護士費用着手金)に対する損害発生後である同年一〇月五日以降支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、(四)、原告紺屋豊志に対し金一〇〇万円及びこれに対する損害発生後である昭和四七年一月一六日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うべきであり、右各原告らの各請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、原告松田乙助、同松田フク、同紺屋昇のその余の請求、原告紺屋富士雄の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中清)

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